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塵劫記(じんこうき)とは,寛永四年(1627年)に江戸時代の数学者吉田光由の書いた本です。これは中国の数学書『算法統宗』を手本にして書かれたといわれています。
塵劫記は当時の実生活に役立つ数学書として作られました。その内容は売買について,面積についてといったように系統立てられていたため,本書を使えば,算数の範囲の数学は容易に独習することができるようになっていました。
塵劫記は江戸時代に爆発的なヒットをし,その時代のベストセラーとも呼ぶべき本になりました。そのせいか,偽版が多く出版されました。その中には『新編塵劫記』など本物のような書名から『早引塵劫記』,『富貴塵劫記』のように明らかに類本とわかるものまで,全部で400種類以上の本が出版されました。このように,塵劫記という名前を付けるだけで本が売れるほど,塵劫記は一般の人々に広まりました。
偽版が多く出回ったため,著者である吉田光由は幾度も改編を行いました。では,塵劫記はどのように変わっていったのでしょうか。
最初に出版された塵劫記は四巻で構成されており,それぞれの中身は以下の通りです。
巻之第一目録
| 一 |
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大かすの名の事(大数の名の事) |
| 二 |
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一より内小かすの名の事(一より小さい数の名の事) |
| 三 |
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一石より内小かすの名の事(一石より小さい数の名の事) |
| 四 |
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田のかすの名の事(田の数の名の事) |
| 五 |
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九九の事 |
| 六 |
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八算のわりの図 付かけ算の事 |
| 七 |
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見一わりの図 付かけ算の事 |
| 八 |
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かけてわれる算の事 |
| 九 |
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米うりかひ同ひょうつもり蔵積の事(米売り買い同俵積蔵積の事) |
巻之第二
| 十 |
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金銀両かへの事(金銀両替の事) |
| 十一 |
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せにうりかいの事(銭売り買いの事) |
| 十二 |
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万利足の事(よろず利息の事) |
| 十三 |
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きぬうりかひの事(絹売り買いの事) |
| 十四 |
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くろ舟のかい物の事 |
| 十五 |
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ふねのうんちんの事(舟の運賃の事) |
| 十六 |
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升の法同万物に升目積もる事 |
巻之第三
| 十七 |
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検地の事 |
| 十八 |
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知行物成の事 |
| 十九 |
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金銀の箔うりかひ 付物にをす積の事 |
| 二十 |
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材木の事 |
巻之第四
| 廿一 |
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川ふしんの事 |
| 廿二 |
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萬ふしんわりの事 |
| 廿三 |
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木のなかさをはなかみにて積もる事(木の長さをはなかみにて積もる事) |
| 廿四 |
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町つもりの事 |
| 廿五 |
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開平方の事 |
| 廿六 |
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開立方の事 |
その後,四巻の続きとして第五巻を出すことにしました。その際,全五巻を通してみて,並ぶ順序を変更する必要に迫られ,編集しなおすことにしました。それでできあがったのが通称「五巻本」と呼ばれるものです。
五巻本では,以下のように,実用的な生活数学とは考えられない内容もできるだけ取り上げました。この五巻本が塵劫記のイメージを確立したといってもよいのです。なぜなら,算法という物に「遊び的」な楽しめる内容を取り入れた最初の数学書だからです。
【新たに取り入れられた内容】
諸物軽重の事
金子千枚を開立方にして
入子ざんの事
まま子立て
ねずみ子孫つもりの次第
からすざんの事
百五げんといふ事
きぬ ぬす人をしる事
油はかりてわけてとる事 ほか
この後,日本最初の多色刷りの本を作ったり,普及版を作ったりして,最終的に「遺題本」と呼ばれる物を作りました。遺題とは,解き方や答えのない問題で,大して数学ができないくせに人に数学を教える人々が増えたため,数学の先生が本当に数学の力があるかどうかを試してみればよい,という意味を込めて掲載した問題です。
遺題本には,以下の12題が掲載されていました。
第一問
| 図のような直角三角形で,a+c=81,b+c=72のときa,b,cを求めよ。 |
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第二問
図のような円すい台の形の唐木がある。上底の円周が2尺5寸,下底の円周が5尺,高さが3間である。これを等しい体積の円すい台に3等分したい。それぞれの高さを求めよ。
第三問
松の木80本と檜の木50本と合わせた値段が銀で2貫(かん)790匁(もんめ)であり,松の木120本と杉の木40本を合わせた値段が銀で2貫322匁である。また,杉の木90本と栗の木150本と合わせた値段が銀で1貫932匁であり,栗の木120本と檜の木7本と合わせた値段が銀で419匁である。檜,栗,杉,松それぞれ1本の値段はいくらか。
(1貫=1000匁)
第四問
檜の木2本と松の木4本と杉の木5本を合わせた値段が銀で220匁,檜の木5本と松の木3本と杉の木4本を合わせた値段は銀で275匁,檜の木3本と松の木6本と杉の木6本を合わせた値段が銀で300匁であるとき,おのおのの木は1本いくらか。
第五問
絹3疋(き)と布8反(たん)を合わせた値段が銀で278匁5分,布2反とさや4巻を合わせた値段は銀で421匁4分,さや1巻と絹2疋を合わせた値段は銀で88匁6分のとき,絹,布,さやそれぞれの値段はいくらか。
(1匁=10分)
第六問
具足2両と上馬5疋を売って,小荷駄13疋を買うと小判5両あまる。また具足1両と小荷駄1疋売って上馬3疋買うとあまりなし。上馬6疋と小荷駄8疋とを売って具足5両を買うと小判3両足りない。具足,上馬,小荷駄はそれぞれいくらか。
第七問
北に堀を掘る。掘った土を使って,下底が一辺30間(けん)の正方形で,高さが9間の正四角すい台の天守閣の土台をつくる。上底の正方形の広さはいくらか。
第八問
円すい台がある。その円すい台の上の周囲は40間,下の周囲は120間,高さは6間である。いま,上から1200坪(つぼ)の土を取りのぞくと高さどれほどの円すい台になるか。 (1坪=1間×1間)
第九問
栗石が750坪ある。これを使って高さ5尺(しゃく)ずつの5段積み上げる。下から2段目の犬走りの幅は1丈(じょう),3段目の犬走りの幅は7尺,4段目の犬走りの幅は6尺,5段目の犬走りの幅は5尺である。上の広さと下の広さを求めよ。
(1間=6尺,1丈=10尺)
第十問
直径が100間の円形の屋敷を,図のように,平行な2本の弦によって分割し,3人にその面積が2900坪,2500坪,2500坪になるように分けたい。このときの弦の長さ及び矢の長さを求めよ。
※第十一,十二問は問題文がないため省略します。
(参考:「塵劫記」) |